Q.心遣いが随所に感じられる、とても素敵な空間ですね。
ありがとうございます。そもそもこの民宿は、藤枝市の「空き家バンク」に登録されていた物件でした。長い間人の手が入らずにいたので、片付けが大変な状態でした。今から5年前のことになります。
それから「ここを民宿にしよう」と決め、改装に取り掛かりました。大工さんにお願いしたこともありますが、自分でも改装を行ってきました。
実は、改装は今でも続いています。
ここまでたどり着くのに本当に少しずつ、お客様が来ては「ここをもっとこうした方がいいね」とアドバイスをもらっては直し、また直し…と、ずっとその繰り返しでした。それは今でも続いていて、具体的に「ここで終了」というものではないんです。改装を続けながら今日があるという感じでしょうか。
また、「空き家バンク」の補助金を利用させていただいたり、「農家民宿」第一号として認定していただいたり、藤枝市の支援を受けることができたのも本当に大きかったです。ここまで形にできたのは、そうした制度の利用や多くの方の支えによってなのだと思っています。
Q.民宿を始められた経緯をお聞かせください。
改装が進み、約4年前にはお客様をお迎えできる状態になりました。その後外国の宿泊サイトに情報を掲載しました。
もともと「民宿をやろう」と思うようになったのは、僕自身が7年ほど海外にいた中で少しずつ考え始めたことなんです。20カ国以上を旅をしながら「こういう宿がいいな」と構想を温めてきていたので、ともかく利用する方たちにふっと一息ついてもらえるような場を目指しました。
Q.どのような方が利用されていますか?
もともと外国の宿泊サイトに登録したこともあり、利用なさるお客様の殆どが外国からの方です。…でも、もちろん日本の方も大歓迎です。これまで日本のお客様に向けた発信をしてきませんでしたが、ぜひご利用いただきたいと考えています。
お客様は1日に1組のみで、1棟まるごとお貸ししています。ご家族だけでふっと一息ついてもらったり、または友人同士でワイワイ過ごしたりもできます。
日本では毎日忙しく過ごされている方が多いですから、こういうところで日常の忙しさを忘れゆっくり過ごしてもらえたら嬉しいです。
それから、最近では竹細工のワークショップを行なうようになりました。現在は、「四海波花かご」「鍋敷き」「竹リング」の3点をワークショップで作っていただくことができます。宿に泊まってくださった方は、この中から「竹リング」を作るワークショップに無料でご参加いただけます。(※宿泊者様が「四海波花かご」「鍋敷き」のワークショップにご参加の場合は、有料でのご提供となります)
Q.竹細工のワークショップですが、梶山さんは竹農家でもあると伺いました。
はい。竹農家としての仕事を始めたのは3年前のことです。
たまたま、本当にたまたま、ある竹農家の方と知り合うことができたんです。そしてその日は、竹農家の仕事をずっとしてきたその方が、リタイヤするという日でした。そういったお話を聞いていたら、「じゃあ、やってくれ」ということになって(笑)。そんな偶然の出会いによって竹農家になる機会をいただき、活動を始めていきました。
宿泊業の方はすでに動き出していました。そこに「竹の仕事」が入ってきて、シンクロしたと言うか…、ちょうど同じタイミングで来たんですね。
民宿も、ただの民宿で終わらせたくなくて、僕自身竹と一緒に成長していきたい気持ちがありました。そこで「農家民宿と竹農家」という2つを両方生かしていく道を考えるようになったんです。
Q.竹農家の仕事についてお聞かせください。
山から竹を切り出し、油抜き後完全に乾かしたものを、「駿河竹千筋細工」の職人さんに材料として卸しています。年々良い材料ができるようになり、今年卸した竹材もとても良かったです。
でもこの仕事は「好き」という気持ちだけでなく、季節の仕事として回せる人でなければ厳しいのかなとも思います。僕の場合は農家民宿もやっていて、それに加えて竹の材料屋にもなったので、材料をどう生かすか…ワークショップの開催等考えることができます。
竹の材料屋をやっているのはこのあたりでは僕だけですね。新規参入もない状況です。
Q.外国の方にとって「竹」は珍しいのでしょうか?
そうですね、珍しいと思います。
世界的に見て、竹は「接続可能な植物」ということですごく注目を集めています。
竹って、実は600種類以上もあるんですよ。…でもどこの国にもあるかと言うとそうではないんです。
僕は多くの国を訪れましたが、竹は「雨が降って、寒くない」という限られた環境でしか見たことがありませんでした。だからヨーロッパなど寒いエリアでは特に、竹は珍しいのではないでしょうか。
インドネシアでは、竹の家具を作っている村に行けば道の脇の工房など、そこら中で職人さんが作っているような感じでした。
ふらりと訪ねて「教えてください!」と言えば「ウェルカム!」って教えてくれるんです(笑)
基礎的なスキルを身に付けられれば、それを応用して長椅子やタンスを作ることもできます。ベースは基本的に同じですが、それを高くも横に長くもできるんですね。
それから、釘は竹くぎのみを使用します。穴を開けて、丸く削った竹をとんかちで入れていくんです。この作業はなかなか難しかったです。
日本では「職人」さんて、敷居が高いイメージがありますよね。
でも僕は職人ではないし、竹農家。そんな人間が、昔のものを作れるようになって、そして他の人とも何か作れたらな、一緒に竹で遊べたらな…と、そんな風に考えています。
Q.では、最後にエフドアについてお聞きします。エフドアを利用したきっかけは?
ちょうど竹を切る機械の購入を考えていた時に、藤枝市からエフドアを紹介してもらいました。それがエフドアを利用するようになったきっかけです。
まだまだ今の事業の形を伸ばしていきたいし、もっと理想の形があるので、今後もエフドアさんに相談に乗っていただきたいですね。
~インタビューを終えて~
農家民宿 結ひ~バリー~は、優しい光が差し込み、ゆっくりと時間が流れるおだやかな空間でした。初めて訪れた場所なのに、どこか懐かしいようなそんな気さえしました。
空間だけではなく、梶山さんと奥様のイラさんの優しい笑顔もまた、民宿に来る人たちの心をおだやかにしてくれるのだと思います。日常の忙しさをひと時忘れ、家族や気のおけない友人とのんびり楽しい時間を過ごすには、まさにぴったりの場所ではないでしょうか。
梶山さん、イラさん、お忙しい中本当にありがとうございました!
■ 『農家民宿 結ひ~バリー~(yui valley)』ホームページ
約7年の海外生活を経て、ネパールで知り合ったイスラエル人の奥様とふるさと藤枝に戻った梶山さんは、1軒の空き家にめぐり合います。
それは、長い期間人の手が入れられずにいた空き家でした。梶山さんはその空き家を「民宿にしよう」と決め、時間をかけ少しずつ改装。今では訪れた人の心を癒す素晴らしい空間に生まれ変わりました。
豊かな自然に恵まれた地で農家民宿を営むだけでなく、不思議な縁から「竹農家」にもなった梶山さん。そんな梶山さんの農家民宿にお邪魔させていただき、ご自身の事業にかける想いについてお話をうかがいました。